【専門家監修】抵当権と根抵当権の違いとは?メリットとデメリットを解説

2021年10月29日

ローン利用時には金融機関が不動産の抵当権を設定しますが、それとは別にあるのが「根抵当権」です。根抵当権は事業主にとってメリットが多く、たとえば「登記の手続きが不要(コスト削減)」「借入・返済が自由」などがあります。ただ、返済後も根抵当権は残り「売却が難しい」「抹消手続きが面倒」という問題もあるため、不動産投資では抵当権の設定をするほうが安心です。そこで、今回は根抵当権について詳しく解説します。

根抵当権とは?

「根抵当権」は、不動産の担保価値を計算したうえで極度額(貸出上限額)を決め、その金額の範囲内で何度でも融資を受けることができる権利です。極度額は不動産の担保価値内で融資の利息や万が一の場合の損害金などを考慮し、たとえば担保価値が3500万円、限度額を「融資額1500万×1.5倍」のように計算します。この例の場合、極度額は2250万円です。あくまでも不動産の担保価値内の金額でなければならないため、極度額が3500万円以上になることはありません。

根抵当権の極度額が2000万円だった場合、2000万円内であればいつでも融資を受けることができます。使い勝手の良さから、根抵当権の利用者は銀行などの金融機関から複数回の運転資金用融資を受けなければならない会社経営者や個人事業主が多いです。根抵当権の特徴として「二重譲渡になった場合、登記者に根抵当権の権利がある」「元本の確定が行われると通常の抵当権と同じ扱いになる」などがあります。ちなみに、元本の確定とは、返済義務のある金額が確定することです。

通常の抵当権とどこが違う?

通常の抵当権、根抵当権ともに、ローンの担保として不動産に設定するものであることが共通点です。ローンの返済が不可能になった場合、融資をした金融機関が抵当権を行使して不動産が競売にかけ、その売却代金がローンの残債に充てられます。これらの点については抵当権も根抵当権も違いはありません。

通常の抵当権と根抵当権が異なる点は、ローン完済によって抹消される抵当権に対し、根抵当権は完済しても抹消されないところです。いつまでも残っている根抵当権は、その不動産の持ち主にとってはデメリットになると言えるでしょう。ちなみに、通常の抵当権は完済後に再びローンを利用する場合、あらためて抵当権の設定をする必要があります。この2つのどちらを選べば良いのかについては、そのときの状況や資金面などによって違うため「こちらのほうが良い」と一概に言い切ることはできません。ローンを利用する際に今後の予定や展開を予想したうえで、通常の抵当権が良いか、根抵当権のほうが合っているのかを判断する必要があるでしょう。

根抵当権のデメリット

根抵当権のデメリットのひとつに「融資先の変更に関する自由度」があります。通常の抵当権は融資先の変更が可能ですが、根抵当権の場合は困難です。抵当権であれば、融資先の変更は新たな金融機関から融資を受け、その資金を利用して前金融機関のローンを完済することで抵当権を抹消できます。新たな金融機関のローンに対する抵当権は、その後に移行すれば問題ありません。しかし、根抵当権の場合、その不動産ローンを融資した金融機関が承諾しない限り、融資先を変更することは不可能です。

根抵当権がある不動産を購入したい人は少なく、売却も難しいので、資産運用という点では自由度が下がるという問題もあります。しかも、根抵当権は債務額が変動するため、基本的には連帯責任も認められていません。ほかにも、根抵当権の抹消時に関する契約として、手数料や違約金の発生が盛り込まれているケースもあるので注意が必要です。

根抵当権にはメリットもある

根抵当権のデメリットについて解説しましたが、悪い面ばかりではなく、メリットも多いです。たとえば、根抵当権の設定によって、極度額の範囲内であれば登記不要で複数回の融資を受けることができます。通常の抵当権の場合、不動産を担保にしたうえで新たな融資を受ける度に登記をしなければならないため、この点は根抵当権のほうが良いと言えるでしょう。登記をする際には登録免許税がかかり「不動産の固定資産税課税標準額×税率」で算出されます。固定資産税評価額は、各自治体が3年に1度見直しを行っているので変動する可能性がないとは言えません。新築の家の場合は、まだ固定資産税評価額が1度も出されていないため、法務局で定める基準によって計算されます。

税金のほかに手数料や印鑑証明書の費用なども必要になり、専門家である司法書士に任せるのであればさらに費用がかかります。根抵当権は「コストを抑える」「時短で資金調達が可能」といった利点が魅力です。また、根抵当権は債権の範囲に設定された借入に対する担保にもなり、証書貸付、手形貸付など対応できるものが多いところにも利便性があります。

不動産売買では根抵当権のデメリットに注意

不動産売買において、根抵当権がある不動産は不利になる可能性がある点に注意しましょう。根抵当権は債権者である金融機関に、抹消の承諾を得る必要があります。そのため、通常の抵当権より抹消を行う手続きが複雑になりがちで、仮に抹消できたとしても時間をかけなければなりません。とくに、抹消を拒否されやすいのは、残債が不動産売却額を上回っている場合です。返済しきれていないローンがある状態で根抵当権の抹消を承諾する金融機関は少ないでしょう。

根抵当権を持っている金融機関にとっては、ローンを完済した状態であったとしても将来の融資先になる可能性がある限り、簡単に抹消に応じないほうがメリットは大きくなります。そのため、簡単に根抵当権の抹消に応じてくれないケースもあります。また、契約内容によっては根抵当権の抹消時に手数料や違約金が発生する内容になっているものもあり、抹消をすることで余計なコストがかかってしまうのも注意点です。根抵当権付きの物件を購入する際には、いざというときに根抵当権の抹消が可能かどうかを確認しておかなければ、直前に売買契約がキャンセルされるというトラブルに巻き込まれる可能性があります。

デメリットも考慮して慎重な判断を

根抵当権は「極度額の範囲内であれば1度の登記で何度でも借入ができる点」が通常の抵当権と異なります。とくに、運転資金として複数回融資を受ける会社経営者や個人事業主にはメリットが多いでしょう。ただ、融資先の自由度が低く、不動産売却が困難というデメリットもあるので注意しなければなりません。根抵当権付きの不動産を購入する際は、その権利を持つ金融機関の抹消の対応可否を事前に確認しておくほうが安心です。

執筆者プロフィール

髙野 友樹
髙野 友樹様

公認 不動産コンサルティングマスター・宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士

株式会社 髙野不動産コンサルティング 代表取締役、株式会社 アーキバンク 取締役。
不動産会社にて600件以上の仲介、6,000戸の収益物件管理を経験した後、不動産ファンドのAM事業部マネージャーとして従事。
現在は不動産コンサルティング会社を立ち上げ、投資家や事業法人に対して不動産コンサルティングを行いながら、建築・不動産の専門家で形成される株式会社アーキバンクの取締役として、業界において革新的なサービスを開発・提供している。


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