【専門家監修】大家向け火災保険の選び方!加入すべき特約も紹介

2021年8月30日

アパートなどの不動産を入手して賃貸経営をスタートするのなら、大家向けの火災保険を選んでリスクに備える必要があります。火災保険といっても、特約の種類が豊富で複数を付けられるタイプも多いため、選択が難しいと感じることもあるでしょう。賃貸物件を借りて火災保険に入った経験があっても、大家が加入するものは別物なので注意が必要です。そこで今回は、大家向けの火災保険や特約の選び方について詳しく解説します。

補償対象・補償範囲・保険期間を把握しよう

前提として、火災保険の主な補償対象は建物と家財であることを理解しておきましょう。一般的に、大家が入るのは建物に対する保険で、入居者が加入するのは家財に対する保険です。建物にはアパートなどの本体だけでなく、門やフェンスといったエクステリアも含まれます。火災保険という名称なので、火災による被害だけしか補償されないと思われがちですが、実際には台風や落雷、水害といった自然災害までカバーできるものも多いです。

2015年より前の契約に関しては、火災保険の保険期間は最長で36年でした。一方、2015年以降の新規契約に関しては1~10年というように改定されています。なお、保険料は長期契約で一括払いをしたほうが割安です。ただし、短期契約は更新の機会が多く、そのたびに保険内容を再検討できるというメリットがあります。

火災保険の保険料

火災保険料には建物の種類や素材が影響し、保険期間や補償内容によっても金額は異なります。たとえば、対象のアパートが木造なら、火災に弱いので保険料は高くなるのが一般的です。それに対して、RC造なら火災に強いため、たいていの場合は安くなります。また、立地が保険料に与える影響も小さくありません。過去に災害が多く起こっている場所や、被害が大きくなりやすい環境にある場合は高くなりやすいです。その他に、保険料に加味される要素として、付帯させる特約の内容や数が挙げられます。

なお、保険料の算出は、主に再調達原価方式という方法で行われます。この方法は、被害があった建物を同じ場所に再び建設すると仮定し、必要な費用を現在の価値で計算して、その金額をベースとするものです。

建物管理賠償責任特約

入居者がケガをしたり入居者の家財が破損したりした場合、原因が賃貸物件にあるなら、それを所有する大家は賠償責任を負わなければなりません。大家が建物管理賠償責任特約に加入していれば、賠償のために負担した金額は保険金で補償されます。建物管理賠償責任特約は施設賠償責任特約とも呼ばれており、特約の基本ともいえる存在です。多様な事態をカバーできることが特徴となっています。たとえば、壁などからの漏水で入居者の家電や家具が傷んだケースや、階段の崩壊で入居者が骨折したケースなども対象です。

また、建物からはがれた外壁によって通行人がケガをするなど、被害者が入居者以外のケースでも該当します。これらのトラブルでは高額な賠償金を請求されるリスクもあるため、万が一の事態を想定して加入しておくのが得策です。

家賃収入特約

火災や水害が起こると、そのせいで部屋に住めなくなることは珍しくありません。そこは空室になるので、家賃収入を得られない状況になってしまいます。しかし、火災保険に家賃収入特約を付けておけば、本来得られたはずの家賃収入を保険金で補償してもらえるのです。ただし、ずっと支払われるわけではなく、契約で取り決めた期間が上限となります。また、空室の割合が全部屋数の5割以上の場合は適用されないので気を付けましょう。

火災保険に加入していれば修繕費を補償してもらえますが、受け取った保険金で家賃収入の穴埋めはできません。家賃収入が途切れるとローンの返済も滞ってしまうリスクがあるので、この特約は前向きに加入を検討したほうが良いでしょう。

家主費用特約

所有している賃貸物件で死亡事故が発生した場合、大家はいくつかの不利益を被ることになります。たとえば、孤独死なら原状回復として清掃や脱臭などの作業が必要ですし、遺品整理の費用なども支払わなければなりません。また、事故物件として扱われ、そのせいで空室期間が長引いたり、家賃の設定を下げざるを得なかったりすることもよくあります。これらの場合、家賃収入に継続的な損失が生じ、影響が長期に及ぶと資金繰りが厳しくなることもあるでしょう。家主費用特約はこのようなリスクの軽減に有効なものです。いわゆる孤独死保険も補償内容は同じで、いずれも死亡事故の事実にもとづいて保険金の支払いを受け、上記のような費用や損失の補填に使えます。

その他の特約について

セキュリティ面は物件選びでよくチェックされるので、大家としては防犯対策費用補償特約について把握しておくことが大事です。この特約に加入しておけば、所有する賃貸物件で不法侵入などがあった場合、防犯のために行う改装の費用を補償してもらえます。防犯ブザーやセンサの設置にかかる費用をはじめとして、オートロックへの改修費なども対象です。また、他にも大家向け保険の特約は多岐にわたり、たくさん加入しておくと大きな安心感を得られます。しかし、その分だけ支払う保険料も高くなるので、コストパフォーマンスを検討したうえで選ばなければなりません。

たとえば、土砂崩れや洪水といった水災リスクが低いなら、水災支払方法縮小特約や建物水災支払限度額特約を選択すると良いでしょう。水災事故の際に支払われる損害保険金が安い代わりに、こちらが支払う保険料も抑えられます。

地震保険も検討すべき?

火災や土砂崩れなどで被害を受けても、それらの原因が地震なら火災保険の対象外になってしまいます。日本は地震大国と呼ばれることも多く、絶対に地震による被害が発生しないと断言できる地域はありません。したがって、日本で賃貸経営を続けていくなら、なるべく地震保険に加入しておきましょう。所有する賃貸物件のある場所が、地震が頻発したり大地震が予測されたりしているエリアなら、なおさら積極的に加入を検討する必要があります。

なお、地震保険は政府と共同で運営されているので、どの保険会社のものでも保険料や補償内容は共通です。また、単体で利用することは認められておらず、火災保険とセットで加入することが条件となっています。火災保険だけを契約した場合、その契約期間の途中からでも地震保険の加入は可能です。

大家向け火災保険を上手に選ぼう

賃貸物件の所有者である大家が火災保険を契約する場合、保険金と保険料はともに高額になります。入居者として加入する場合より、補償の内容や期間を詳しく把握しなければなりません。特約も必要性を吟味して多く付けておくのが望ましいです。地震が原因の火災は補償されないため、地震保険も加入したほうが良いでしょう。さまざまな保険会社の保険内容や保険料、特約などを十分に比べ、最適と思えるものを選択することが大切です。

執筆者プロフィール

髙野 友樹
髙野 友樹様

公認 不動産コンサルティングマスター・宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士

株式会社 髙野不動産コンサルティング 代表取締役、株式会社 アーキバンク 取締役。
不動産会社にて600件以上の仲介、6,000戸の収益物件管理を経験した後、不動産ファンドのAM事業部マネージャーとして従事。
現在は不動産コンサルティング会社を立ち上げ、投資家や事業法人に対して不動産コンサルティングを行いながら、建築・不動産の専門家で形成される株式会社アーキバンクの取締役として、業界において革新的なサービスを開発・提供している。


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